フォーラムの理念
私たちは子どもを中心にしてつながり、学んだことを子どもたちに届けます
1.日時
2025年6月10日(火)20:00〜21:00 (日本時間)
2.場所
オンライン (Zoom)
参加者
7名
3.内容
1)新入会者の自己紹介 シンシアさん
フィリピン在住の経験豊富な英会話講師で、これまでにコカ・コーラ、ANA、私立学校など、さまざまな日本企業や教育機関でオンライン指導を行ってきました。4歳のお子様からご高齢の方まで、幅広い年齢層の生徒を対象に英語を教えています。
シンシア先生は、日本人の生徒について「礼儀正しく熱心で、少しシャイな傾向がある」と感じており、そうした生徒たちが自信を持って英語を話せるよう、励ましとポジティブなフィードバックを大切にした指導を行っています。また、英語の映画やビデオを活用した学習法も提案しており、楽しみながら語学力を高める方法も積極的に取り入れています。
2)その他
ファシリテーターの西野さんが提案した「あなたからは何が見えますか?」という質問方法について話し合い、これが相手の視点を理解し、コミュニケーションを深めました。また、この質問方法を子育てや教育に活用することの可能性についても議論しました。
総括
本フォーラムは、女性教育者同士の自由で率直な対話を通して、これからの教育のあり方を探る場としてこれまで10回にわたり開催されてきました。発足準備も含めて約2年にわたる継続的な対話の中で、扱ったテーマは多岐にわたりますが、毎回の議論の核心には必ず「コミュニケーション」と「自己肯定感」という2つのキーワードが浮かび上がってきました。第10回はこれまでの議論を振り返り、この2点がなぜ日本の教育にとって重要であるのか、そしてこれからの教育のあり方について整理しました。
1.見えてきた2つの本質的課題
① コミュニケーションの課題
・教育現場では、いまだ「教師が話す」「子どもは聞く」という一方向型の授業が多く、対話的・協働的な学びの機会が限られています。
・「空気を読む文化」や「他者との違いを出さない」傾向が、自分の考えを表現する力の育成を阻害しています。
・日本の15歳は「失敗を恐れる」傾向が最も強い国のひとつであり、これは発言・挑戦を避ける風潮と結びついていると指摘されています(出典:OECD PISA 2018)。
② 自己肯定感の低さ
・国立青少年教育振興機構の調査(2015年)によれば、「自分はダメな人間だと思うことがある」と答えた高校生は、日本では72.5%にのぼり、米国45.1%、韓国35.2%と比べて著しく高い水準です。
・また、OECDや内閣府の調査では、日本の若者は「自己肯定感が他者からの評価に強く影響されやすい」傾向があることも明らかになっています。
・こうした背景には、減点主義的な評価、失敗を許さない風土、恥の文化、自己主張を抑える文化が存在します。
参考
我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査 令和5年度 こども家庭庁
2.なぜこの2点が「教育の本質」なのか
・教育は「知識を教えること」ではなく、自ら考え、他者と関わりながら生きていく力を育むことです。
・自己肯定感が育って初めて、子どもは他者と安心して対話し、学び合い、挑戦することができます。
・コミュニケーション力は、学びを深めるだけでなく、社会との接点を築くために必要です。
3.今後に向けて
・子どもが「安心して自分を表現する」ことができるように、社会全体でその環境を整え、大人が快く受け入れる姿勢を持つことが求められます。
また、「教える側」「育てる側」としての大人一人ひとりが、「自分を肯定し、他者と真に対話する力」を身につけ、その姿勢を日常的に示していくことが、社会全体の文化として根づいていくことが必要です。
おわりに
10回にわたる本フォーラムの成果は、「教科」や「指導方法」以前に、人教育の本質に向き合うことの大切さを再認識させてくれました。子どもたち一人ひとりが「自分を大切にしながら、他者とつながれる力」を育てることを、共通の目標として確認しました。
【補論】文化が形作る自己肯定感
― 日本と欧米における自己の捉え方と育ちの違い ―
1. はじめに
自己肯定感は、すべての人にとって心の土台となる重要な感覚ですが、その形成過程や意味づけは文化によって大きく異なります。日本における自己肯定感の育ちの特徴を理解するには、文化的背景に根ざした「自己観の違い」を押さえることが不可欠です。
2. 日本(東アジア)と欧米における文化的比較
項目 | 日本(東アジア) | 欧米(アメリカ・西欧) |
---|---|---|
自己の捉え方 | 関係性に基づく自己(相互依存的自己観) 例:「周りとの調和の中での自分」 |
個人に基づく自己(独立的自己観) 例:「自分の信念や目標に忠実な存在」 |
自己肯定感の源泉 | 他者からの評価・役割の遂行 → 「迷惑をかけない」「期待に応える」 |
内面からの自己承認 → 「自分で自分をよいと思える」 |
影響されやすいもの | 周囲の目、集団の和、他人の期待 | 自分の目標、信念、個人の選択 |
自己主張の傾向 | 控えめ・協調的が美徳 | 自己表現が当然・奨励される |
自己肯定感の安定性 | 他者評価や失敗に左右されやすく不安定 | 自己内省によって比較的安定しやすい |
3. まとめ
・日本の子どもたちは、「自分自身の価値」を他者からの評価や期待に大きく依存して感じている傾向があります。
・このため、教師や親など周囲の大人が「あなたのままで価値がある」という無条件の受容を伝えることが極めて重要です。
・また対話や表現の場を通して、「他者との比較ではなく、自分の中に価値を見出す経験」を意識的に設ける必要があります。
4. 出典
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内閣府「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(平成25年度)https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/ishiki/h25/pdf_index.html
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国立青少年教育振興機構(2015)「高校生の生活と意識に関する調査」